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仲間内でパインヘブン(PH)と呼んでいるポイントがある。そこは広大なプールで、流れ込みから最下流の水門まで立ち込めてライズを狙えるという実にフライフィッシング向きのポイントで、仲間内でも人気があった。ここは少し特殊で、7月までは釣り禁止8月以降解禁になるというルールだったのだが、残念な事に2019年より釣り禁止になってしまった。あまりにも突然過ぎて心の整理もつかないまま思い出になってしまったPH。ここでは、過去の思い出など綴ってみよう思う。

最初にPHに訪れた時の事は今も鮮明に覚えている。その日は、伴竹さんから一緒にやろうと誘われ、道を教わり向かった先がPHだった。多少道に迷ったものの無事に伴竹さんと合流し、前日尺ヤマメを釣った話を聞きながらポイントに向かった。この日は小雨がぱらつく絶好のライズ日和、既に伴竹さんの友人(爆あんちゃん)がライズ対戦中だったので二人で観戦していると、広いプールのあちらこちらでライズが始まり、友人に声を掛け、それぞれ好きなポイントでライズを狙う事になった。流れを見ると5,6匹がクルージングしながらライズしている群れが3、4つあり、定期的の目の前を上流へ通り過ぎて行く。雨風で多少荒れた水面が釣り人に有利に働き、運よく短時間の間に尺ヤマメ二匹とニジマス一匹手にすることができた。

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​PHで釣った最初の尺ヤマメ。 Photo 09/2002   

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この日釣ったヤマメのストマック。我が生涯No.1ストマック。  

その日から、僕らの中で一気にメジャーポイントになったPH。川に行けば絶対に立ち寄るポイントになり、僕らの期待を裏切ることなく、何かしらのご褒美や宿題をくれた。ある日、伴竹さんとPHに立ちこみ、散発ライズを楽しんでいると、あれよあれよという間にライズは増え、今まで見た事が無いくらいのライズに囲まれてしまった。「これ楽勝でしょう」なんて呑気なことを言いながら対戦するが、二人の竿は一向に曲がらない。少しづつ焦りが出てきてフライ交換にも時間が掛かるようになってくると、突然「羽蟻だ」と伴竹さん。水面を見ると夥しい程の羽蟻が流下していた。水面が波立っていたので確認しずらかったのだが、風が止みべた凪になると水面には無数の羽蟻を確認する事が出来た。こうなればこっちのものだと思い、アントパターンに変えたのだが、結局この日は、どちらの竿も曲がることはなかった。あんな凄まじいライズの中カスリもしないなんて、しかも捕食物が分かっていたのに。相当凹んだ。悔しくて悔しくて、本当に悔しくて、次の日会社を休むことに。次の日も同じように流下があるのか少し心配だったけれど、幸い前日程では無かったが流下はあり、この日は何度も竿が曲げることに成功する。使ったフライはアント。昨日使っていたフライもアント。では、何が問題だったのか、答えはフライを流す層。初日は普通に表層を流していたが、この日は水面直下。実はあまりにも悔しかったので、ある先輩にこの日をことを話し、アドバイスを求めたところ、一言「水面下だよ多分」。先輩曰く、羽蟻は水生昆虫では無いから、水面を浮く構造では無いし、水面上にそれだけ流下があれば、間違いなく水面下にも同じかそれ以上の流下があるよ、と。

コンディション抜群プリプリの尺ヤマメ。(写真右)これもPHでライズしていた魚。ちょっとスレていて普段使っていているフライには全く反応しなくて、その場でウィングを毟ったりしてなんとか食わせることに成功した一匹。自然を相手にしていると、状況によっていろいろなことを要求され、その対応力のあるなしが結果を大きく左右することになる。そんな事も桂川のライズから教わったこと。アントの時もそう。ドリフト層を変えることで状況は一変した。この頃はライズも多く、ひとつのライズを潰しても直ぐに次のライズを、という感じだったので短期間にいろいろと勉強する事ができた様に思う。もし、現在の様な状況であればスキルアップにもそれなりの時間を要したことだろう。そういった意味でも、この時期を桂川で過ごせたことはとてもラッキーだった。広大でフラットなプールに立ちこみ、気持ちよくロングキャストを決めライズを狙う。フライフィッシングの醍醐味のひとつ。ホームにもいろいろいなライズポイントがあるが、このようなシチュエーションでライズを狙えるポイントは少なく、PHでライズを見つけたり、友人からライズがあったと聞くと、胸がときめいたものだ。ロングキャスト用のロッドを購入したり、ラインをいろいろ試したりと、PH用のギアセッティングをしてライズに挑み、遠目で尾鰭をピロピロ出しながらライズしている尺ヤマメをゲットした時のあの達成感は何にも代えがたいものであった。仲間と並びワイワイしながらライズを狙うのが楽しいと思わせてくれたのもPH。新しい遊び方やフライフィッシングの楽しさを教えてくれたポイント。できる事ならもう一度だけでイイから、仲間と一緒に立ち込みライズを狙ってみたい、そう強く思う。

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​古いT&T竹竿とPHの尺ヤマメ。    

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この日は曇天でコカゲロウへのライズだったと記憶しているが、浮石下のポイントで数匹がライズを繰り返していて、ライズが安定したのを見計らい、まっちゃんが勝負に行く前の一枚。

 

まっちゃんとはこの年の解禁日に一緒に釣りをしたのが最初だったと思う。僕が橋下でライズを狙っていて、25~29㎝を5,6匹釣っていたところに電話をもらい、支流で凄いライズがあるから来ればという誘いだった。聞けば、二人で20匹は釣ったと。それでもまだライズが続いているという。そう考えるといい時代だった。今ではちょっと考えられない、僅か数十年前なことなのに。まっちゃんは年間釣行の全てを桂川で、という桂川マニアでもある。そのスタイルは完全桂川仕様で、細いティペットと極小のフライを操り、難解なライズ程集中力は高まり結果を出す。行けば釣るということから、ゴッドハンドとも呼ばれていた。皆が躍起になり狙っていた特大のヤマメ(38㎝)を執念で射止めたのもまっちゃん。

 

​静かにウェーディングをしポジションを決めたまっちゃん。ライズの周期を読み、ここぞというタイミグで放たれたラインは綺麗なループを描きスルスルと伸びていった。フワフワと気持ちよさげに流れているフライが音も無く吸い込まれる。右手を軽く煽ると、水面に飛沫が上がり静寂は破られた。

​古いシムスベストとネオプレーンで決めるまっちゃん。    

下の写真は知り合って間もない頃の伴竹さんのPHでの雄姿。2011年3月号のフライフィッシャー誌では、伴竹さんと二人で取材を受け、PHで35㎝はあろうかというヤマメに2人揃ってやられてしまったのは悔しかったけれど、今となってはとてもいい思い出。この川で一緒に釣った回数が多いのは間違いなく伴竹さんだろう。もう時効だから書くけれど、この頃は昼食にビールを飲むのが習慣で、良くビールを差し入れしていたし自分も飲んでいた。伴竹さんは確かアサヒのグリーンラベルが好きで、よく飲んでいたように思う。また、八丁堀という蕎麦屋で食事することも多く、そこではよくかき揚げ蕎麦を食べながら生ビールを飲み、2人して気持ちよくなってフラフラしながら釣りをした記憶もある。今では絶対にできないこと。僕らがイメージする伴竹さんは、黄色いキャップにタンカラーのシムスベスト。まさにこの写真のスタイル。古くから伴竹さんを知る方であれば、ピンとくるはず。伴竹さんの釣りは大胆で繊細。ライズを見つけてもすぐに行動に移さない。じっくりをライズを観察し、一番釣りやすいアプローチを導き出すまでは。決まってしまえば、あとは大胆にスパっとフライを運ぶ。見ていて一つの不安も感じること無く、とても気持ちのいいスタイルといえる。勿論、釣りも上手なので、尺ヤマメも沢山釣る。伴竹さんから教わったことはいろいろある、後ろから見て盗んだ技もある。伴竹さんがホームで使用している伴竹黒十字というパターンは、今まで数多くの尺ヤマメを仕留めてきた。現在でも使用している仲間は多く、今なお現役で活躍しているこのパターンは僕らの中では不朽の名作と言えるだろう。また、伴竹さんと、PHで馬鹿話をしながらライズを狙えたらどれだけ幸せだろうか。

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​PHで伴竹さんが釣ったヤマメ    

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​渋いライズを一投で掛け、ファイトを楽しむ伴竹さん。 

​初期の頃は、流れ込みから水門まで全域がライズポイント。水門を狙う時は、小さな沈み石に乗っかり不安定な状態でフルキャストを強いられるので、釣りえ終えると全身に結構な疲労感が残った。中期は浮石から上流、後期は岬と呼ばれた流れ込みやや下流左岸がライズのメインポイントになっていた。岬はバックが取れないので、投げるのにやや苦労したが、ライズポイントが近くフライへの反応がよく見えとてもエキサイティングだった。岬の釣りも面白かったが、僕的には浮石周辺のライズを立ちこんで狙っている時がPHの釣りというイメージ。

そうそうPHでは小便を漏らしたこともあった。その日は曇天で少し肌寒く、めちゃめちゃハッチ日和。案の定、至る所でライズがあり掛けても掛けてもライズは止まらず、小便を我慢しながら釣り続けていると、いきなりの限界突破。最初のチョボで、まずいと思った僕はムスコに力を入れるも、自分の意志とは裏腹に小便は止まらず、最後まで気持ち良くウェーダーの中に垂れ流し続けると、下着からキャプリーンへ温かいものがジワジワと伝わる味わったことの無い感覚。なかなかのものでしたね。

そんな釣り以外の思い出も沢山あるPH。もうPHでの釣りは叶わぬ夢なのだろうか?せめて一度、一度だけでいいから、仲間と一緒に立ち込んで釣りをしたい。

​July,2021

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