

ボロボロでライズを待つ、まっちゃんとジー Photo 06/2004
その日は新しいポイントを探すため、朝からあちこち車を走らせていた。普段は渋滞を嫌い裏道を走るのだけれど、この日はなぜか国道を使ってしまい、橋の上は信号待ちの渋滞で車はノロノロとしか進まず、少しイラついていた。窓越しからぼんやりと川を眺めていると、護岸の入ったいい感じのプールが目にとまった。
この辺りは全くのノーマークだった。それには訳がある。この少し上流にある大きな取水堰堤で、ガッツリと水が取られていて、堰堤直下からの流れはチョロチョロしか流れていなかったので、僕はこの区間を釣り場対象から外していたのだ。少し前までのイラつきは収まり、ソワソワしながら住宅街を適当に進んでいると、河原沿いに数台駐車できるスぺースを発見。既にそこにはシルバーのベンツのワゴンが止まっていたが、とりあえずベンツの横に車を止め、河原を見渡せる護岸まで歩いてみると、ただならぬ気配で河原に這いつくばり石化けしているフライマンの姿が目に飛び込んできた。ビンゴである。あんなに尋常ではない恰好をしてまで狙うターゲット?間違いなく本命(ヤマメ)だろう、僕はそう確信したのだ。
石化けしていたのは伴竹さん。この時は人を寄せ付けないオーラーを放っていたので、挨拶もせずにその場を離れたが、後日違うプールで出会いお互いそこでライズしていた尺ヤマメに弄ばれ意気投合し、現在まで良き友人としてお付き合いをさせて頂いている。
次の休み日、朝いちばんでこのポイントに向かった。太陽がジリジリと照り付ける暑い日で、とてもライズ日和とは言えないコンディションだったが、とりあえず先日釣り人が石化けしていた周辺に行きライズを探してみる事にした。
水面を眺めてみると対岸からせり出した木がイイ感じに影を作っていて、いかにもライズしそうな雰囲気があり、きっとココでライズしていんだろうなぁなんて考えていると、ポワーンととても小さなライズリングが広がる。ウグイ??これがこのポイントで見た最初のライズの印象だった。
後にこのプールはボロボロと呼ばれることになり、いろいろな名手がやってきては頭を悩ませ、僕らを熱くさせてくれた名ポイントとなっていくのである。
右の写真はボロボロを釣る佐藤成史さん。名手がどういう組み立てで対戦するのか、興味深々で一挙手一投足見逃すことなくじっくりと見学したのを覚えている。

大胆に立ち込みライズを狙う成史さん。 Photo 04/2004

Photo 04/2002
この頃のボロボロのライズは難しかったという印象しかない。いろいろな要因があったと思うが、一番は自分のスキルの無さ。ドリフト精度、フライ選択、ポジショニング、今考えるとどれをとってもイマイチだったように思う。
でも、この頃はライズが頻繁にあったので、何度もトライをして失敗を繰り返していくうちに少しずつスキルが上がってくると、魚を掛ける確率も上がっていった。
ボロボロにはいろいろな思い出があるけど、ひとつ、強烈に印象に残っていることがある。朝からスカッと晴れた気持ちよい日、車を止め土手から川を覗いて見ると、ボロボロの開きの浅い流れの真ん中に、35㎝を優に超えるヤマメが左右に移動しながらライズを繰り返している光景が目に飛び込んできた。すぐに着替えを済ませポイントに直行すると、幅広な魚体を露わにして流下してくる全ての物に反応しているかの如く、頻繁にそして大胆にライズを繰り返していたのだ。
一投目で反応するだろうと思っていたので、慎重にキャストしていい具合に流れに乗ったフライはヤマメの射程内に入ったのだがまさかのスルー。この後数回フライを変えるも同じくスルーされ、ライズの頻度も落ちてきてしまい敗戦濃厚な状況に。唯一の救いは定位している魚が見えるということ。例えライズしていなくても魚さえ見えれば、勝負が可能になる。フライボックスの隅にあったシャンパンカラーのハックルを巻いたスタンダードパターンに手が伸びた。
ボロボロで最初に釣れた尺ヤマメ。(写真左)護岸沿いのライズを、なんどもなんどもトライし苦労の末に掛けた記憶に残る一匹。
釣れた直後に池ちゃんが来て、僕の釣った魚を見ると、わざわざ近くにあった和菓子屋(現在は廃業)まで行き、お饅頭を買ってきて祝ってくれた。
池ちゃんの優しさと釣れた喜びが入り混じって、とても気分が良かった事を今でも覚えている。
この時釣った尺ヤマメのストマックがこれ。これまでフライの選択が全く分からなくて、いろいろなパターンを使ってきて結果が出ず、やけくそでフライボックスにあった一番小さな#20のユスリカピューパーを使ったらあっさり釣れちゃったというどこにでもありそうなパターン。でも捕食物にはユスリカピューパーなんていなくて、マッチングザサイズというオチ。

Photo 04/2002

ボロボロのライズに挑む渋谷くん。この頃はまだライズもあり十分楽しめたが、数年後には台風の影響で見る影もなくなってしまった。因みにこの時の渋谷君は、こんな魚釣れねーって言って苦笑いしてました。 Photo 04/2008
一投目、定位している数センチ奥目に落ちたフライを魚体を捩りながらバックりとフライを咥えたのだ。喜びもつかの間、表層で激しく重いローリングをされるとあっけなくフライが宙を舞いバレてしまった。
土手から見た景色、キラキラした流れ、大小の底石、表層を暴れるヤマメ、所々の記憶は今も鮮明に僕の心の中に刻まれている。
対岸に護岸が続く細長いフラットなプール。護岸沿いをクルージングしながらライズすることが多く、流下が増えてくるとプール中央に定位することもあった。中央に定位している時は割と簡単に反応してくれるけど、護岸ギリギリのライズは非常に難しかった。
イブニングになると昼間とはまた違った一面を見せてくれるのも魅力のひとつだった。太陽が沈みかけると流れ込みで大きなヤマメやニジマスが迫力あるライズを繰り返すのだ。今でこそイブニングはあまりやらなくなってしまったけど、当時は真っ暗になるまで必死にキャスティングを繰り返して、ぼやっと見えるフライにがぼっという音と共に白く大きな飛沫が上がるあの瞬間を楽しんでいたものである。日中には見られないサイズの魚が釣れるのもイブニングならではであった。
度重なる台風による被害で、現在は昔ほどの魅力が無くなってしまったボロボロプール。最近では、殆ど足を運ぶ事が無くなってしまったけれど、僕の心の中には熱かったあの頃のボロボロの流れがしっかりと流れ続けている。

奥に見える石の前は良くライズが見られたポイント。基本的には護岸沿いがライズポイントだが 、真ん中でライズしているこんな日はチャンスが倍増する。Photo 04/2008
Jun./2021