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まだ暗い中をいつもの田舎道に愛車のプリウスを走らせている時、ふと釣れるなら今日だろうという思いが頭をよぎった。第六感というやつなのだろうか?過去にもこういう経験はあるが、釣れることもあれば釣れないこともあったので、たいした予感では無いのだけれど、もし今日釣れなかったら多分もうチャンスは無いんだろうなぁと漠然と感じていた。

朝一に入るポイントが今年のモドリ釣りの運命を左右するだろう、そう思えたので今まで以上に慎重にポイントを選んでみる事にした。ここ数日は天候も安定しているので、きっとヒゲナガのハッチもあるだろう。そのヒゲナガを狙って浅い流れ込みに魚が入ってくるようなポイントが良さそうな気がする。流れ込みに入ってくる魚はフライへの反応も良いので釣れる確率も高くなる。頭に浮かんだのは二つ。どちらも似たようなポイント。​上流に瀬をもつ長いプールで流れ込みからテールまで流れは穏やかに続きフライもスイングさせ易い。迷った挙句選んだのは、先週朝イチに入りニジマスを釣ったポイントで、過去一番実績のある僕の大好きなラン。

車のドアを開けるとムッとした熱気が僕の身体に纏わりついた。本能的に今日はヒゲナガのハッチがあると直感する。ここまではイメージ通りに事が進んでいる。今日は大丈夫だと自分に言い聞かせロッドケースを手繰り寄せる。中にはお気に入りの二本、バーキーとボブ・クレイのバンブーロッド。心情的にはバンブーロッド、でもどうしても釣りたいという欲求が邪魔をし、広範囲を探れるバーキーに心が揺れる。先日購入したエーベルのリールを使うという事を理由にしてバーキーを選ぶ。

バーキーはこれで三本目になるがどれも釣り竿としての能力が高い、その中でもこの12’8”#5-6-7というスペックはピカ一で、今一番お気に入りのDH(ダブルハンド)。ラインはトリプルデンシティーのF/I/Hを選択してドロッパーにマドラー、リードにグレートセッジをセットしポイントに向かった。

6月ともなると河原の草木は歩くのも難儀するくらい成長していて、手でかき分けながらときには蜘蛛の巣をやりちらしながら歩を進めた。河原に出ると薄暗い空をこうもうりが行きかい、身体の周りをヒゲナガが飛びかっている。流れに目をやると先週よりもさらに減水が進んでいるようで、流れ込みの勢いが幾分弱まっている。しかし、ここのランは減水ポイントと呼ばれていて、減水時が特にイイとされているから問題は無いだろう。

ジージージー、エーベルからラインを引き出しながら流れ込みの頭に立ち、ゆっくりとしたキャスティングスピードで下流45度へ向けてラインを弾き出す。先週は一投目からアタリがあったので、緊張しながらスイングさせてみるも反応は無い。先週に比べ減水している分、ドリフトスピードが若干遅くてヒゲナガのスイングの釣りには合っていないように感じたが、生憎フローティングラインを車に置いてきてしまったので、反応が無ければリトリーブしてラインスピードを調整しようと考えた。

このポイントの核心は一投目から十投目の間。必ずこの間で勝負が決まるので、とにかくその間はソフトな着水と丁寧なドリフトを心がけてみるが、二投、三投目も反応は無く四投目。綺麗にターンも決まり、直ぐにスイングは開始され表層をゆっくりとラインが横切っていく。すると突然エーベルが逆回転して唸りをあげた。ついに来た。直感的にモドリだと感じた。

いきなりトップスピードで下流に走りだしてしまった為、合わせたという感覚が無く心配だったので一応追い合わせを入れ、バットをためて走りを止めに掛かかると、今度は表層で激しくローリングを繰り返した。そのスピードとトリッキーなファイトに翻弄されながらも、絶対に主導権を明け渡すものかと必死に応戦しているが、相手もタフな奴で今度はエーベルのドラックを鳴らしてグングン上流に突き進んでいく。自分より上流に上っていったところで一気に間を詰めて勝負に出た。バーキーのバットを曲げ強引に下流へ向きを変えると上流に上っていったことで体力を消耗したのか、すんなりと僕の方に向きを変えてくれた。素早く腰にあるランディングネット取り出し魚をコントロールすると、流れに乗り抵抗する事なくすぅーっと寄ってくる。少しでも暴れてくれれば魚体が確認に出来るのだが、あまにも素直過ぎて背中しか見えないため、モドリと判別出来ず少々ヤキモキしたが、魚はそのまま何事も無くランディングネットに収まり長かったようで短い勝負は終わりを告げた。

恐る恐るネットの中を覗いてみる。

 

ネットに横たわる白銀で傷ひとつない見事な魚体に『やったぜ』と心の声が漏れ出た。

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今年のモドリ戦線は春から良好と伝えられてきた。SNS上には40や45のモドリの写真がアップされていたし、フライでも結構な数のモドリが釣られていたので、今年は絶対に釣れると思いGWから毎週通っていた。まったく結果が出なかったが心折れることは無く、毎週週末が来るのが楽しみで仕方がなかった。友人や先輩からは、その根性たいしたものだと褒められたりもしたが、自分的にはそんな事は全く思っていなくて、好きだから・楽しいから毎週通っていただけなのである。ただひとつ心が引けると言えば、家族との時間を犠牲にしているということ。家族の理解無くしてこのモドリと出会うことは無かっただろう。家族には感謝している。

約一ヶ月間、週末トラウトバム状態でモドリを追いかけた訳だが、結局釣れたのはこの一尾だけに終わってしまった。それでもボーズだったのは初日だけで、毎回ニジマスの顔は見れていたし、釣れはしなかったけど正体不明の大物のやり取りもあったのでそれなりには楽しめた。欲を言うならば、もう少し大きなモドリが釣りたかった。

今年のモドリはこれで最後かもしれないが、来年以降もモドリ狙いは続けていくつもりでいる。釣れない釣りだけれど、釣れた時の感動は何物にも代えがたい。

 

今も、あのエーベルの心地よい逆転音が耳に残っている。       

​                                                   Jun./2021

 

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